マイクロドローンは「おもちゃ」じゃない-プロが語るパイロットのニーズと始め方

これまでドローンでの空撮といえば、ジンバルや各種センサーで水平を保たれた、安定した映像を求められるのが常識でした。ところが今、マイクロドローンが新たな表現手段として求められています。機体が200g未満ということでトイドローンと混同されがちですが、ゴーグルをつけて自分がドローンに乗っているかのように操縦するマイクロドローンは、性能や表現力がまったく別物です。

さらには国内で賞金つきのレースも開催され、マイクロドローンの「プロ」として活躍する舞台が広がる可能性が広がっています。

ドローンレーサー「dknbFPV」として輝かしい実績を持ち、「DMM RAIDEN RACING」のキャプテンを務め、映像製作の現場でも活躍する後藤純一さんに、マイクロドローンやレース用5インチ機の可能性、そしてこれからチャレンジする方へのアドバイスを伺いました。

「レースに出ることは、考えていませんでした」

――後藤さんは、これまで国内外のドローンレースで実績を残してきました。いろいろ伺いたいのですが、まずはドローンを始めたきっかけから教えていただけますか。

もともとITエンジニアの仕事をしてきて、独立して会社も経営するなど、息つく間もなく駆け抜けてきた人生でした。そこで、ちょっと立ち止まって充電しようと、しばらく休暇を取ることにしたんです。そんなときYouTubeでフリースタイルと呼ばれる空撮映像を見かけて、鳥になって飛んでいるような映像に魅了されて。

でも、レースに出ようなんて、まったく考えていませんでしたね。Facebookのコミュニティで5インチ機のレースに誘われたので、「試しに出てみようかな」という感覚で始めました。とりあえずFPVに必要な「4級アマチュア無線技士」の資格を取って、練習を始めました。最初は思い通りに飛ばすのは難しくて、何とか完走できるぐらいの技術は身につけたいというレベルです。

――そして臨んだのが2016年12月 JDRA 全国ドローンレース選手権ですね。いきなり関東大会で優勝しました。

始めてから2カ月でした。運もよかったのだと思います。

――どのような練習を重ねましたか。

屋外で練習できる場所は限られているので、毎日の練習はシミュレータが中心です。屋外でも、本番と同じようなゲートを立てられる場所がなくて、植木の間を飛ばすだけでした。本格的なコースを使ったのは、レース1週間前のこと。当時は今ほど環境が整っていなかったので、みんな同じような状況だったようです。あとはYouTubeで上手い人の映像を繰り返し見ましたが、これも今ほど豊富ではありませんでした。

――練習を重ね、翌年にはJDLのレースにも参加して、年間チャンピオンになりました。

ドローンや空撮とは無縁だった人生が、変わっていきましたね。

後藤さんは、ドローンレースを通して人生が大きく変わったと言う

――空撮の仕事を始めることは、早くから考えていたのですか?

ドローンレースに専念していたので、空撮は趣味の範囲だけでした。仕事としての空撮は、ここ1年あまりですよ。

映像作品や点検業務で求められるようになったマイクロドローン

――従来の常識ではブレない映像に価値があるとされてきたので、レース機を使った空撮が求められているのは意外です

マイクロドローンやレース用5インチ機では、機体とカメラの角度が固定されているので、斜めに移動したときに映像も斜めになってします。こうした画像は「使えない映像」とされ、DJIに代表されるような、ジンバルで安定したなめらかな撮影ができる機体が主流でした。

ですが、ここ最近は小型カメラの性能が向上してきたこともあり、マイクロドローンやレース用ドローンを使った撮影の依頼が少しずつ増えてきています。映像業界の方は常に新しい表現を求めていることもあって、斜めアングルの面白さや、自然な流れの映像に注目が集まっているのです。

――どんな分野でマイクロドローンの映像が求められていますか?

多岐にわたりますが、先日はミュージックビデオでアーティストの回りを飛びました。スポーツ選手の足元を追いかける撮影もあります。ほかには、これまで難しかった室内を安全に撮影したいというニーズにマイクロドローンが応えています。飲食店や工場設備、研究施設の紹介映像に使われていて、結婚披露宴でも需要があります。

――マイクロドローンと5インチ機、それぞれの特徴や使い分けを教えてください

マイクロドローンのよさは、何といっても小さいことで、これまで入っていけなかった空間での撮影が可能です。室内で飛ばせるし、外でも航空法の適用外になるサイズなので、イベント会場でも航空局への申請なしで飛ばせるのが特徴です。万が一、器物や人と接触しても安全なので、被写体の10cmぐらいまで近づくこともできます。画質は最新の機体で、4K映像まで撮影できます。

そのため点検系でのニーズも多く、今後さらに活用されていくのではないでしょうか。ちょっと見たいだけなのに足場を組まないと立ち入れない、そんなシーンで非常に注目されていて、よく相談を受けますね。企業や東京大学の石川雄章教授と、インフラ点検の実証実験も行っています。

後藤さんが実際に空撮で使用しているフルHD撮影可能なマイクロドローン

こちらは後藤さんが4Kカメラ搭載のマイクロドローンで撮影した映像です。

※こちらのマイクロドローンは後藤さんのショップにて販売中です。初めてトライする方でもすぐに始められる、FPVゴーグルやプロポがセットになったものも販売しています。

5インチレース機については、スピード感のある映像がほしいというオーダーがあったとき使用します。マイクロドローンよりもダイナミックな映像が撮れ、よりアクロバティックな撮影もできます。また、GoProのカメラを搭載することもできるので、4K画質での撮影も可能になります。より高性能なカメラが小型化すれば、さらに活躍するシーンが増えていくでしょうね。

5インチ機によるエクストリーム映像

特にこの映像はFCにKISSを採用した機体で撮影しているのですが、こちらのサイトで、RAIDEN RACINGメカニック、田川さんによる5インチ空撮機製作(KISS機)のコンテンツも始まると聞いています。5インチ空撮も迫力あって楽しいですよ!

多くの観客に見守られた、賞金総額$3000のマイクロドローンレース

――後藤さんは現在、マイクロドローンのレース大会を主催しています。レーサーとして活躍する道はあるのでしょうか

レースに参加するパイロットだけではなく、見て楽しい大会にして注目度を増やし、レースに参加する競技人口も増やしていく必要があると思っています。そうしないと市場ができず、プロも存在できませんからね。

その点では、海外のレースはよく考えられています。大型スクリーンを用意しているし、観客が見やすい特別なLEDを装着して、屋外ナイトレースも美しくて盛り上がります。また、8機同時に飛行も盛り上がりますね。日本のアマチュア無線免許では3機までしか同時飛行できないのが残念です。

――このほど注目度の高いレースがありました

国内ではまだ珍しい賞金付きレース「2019 BETAFPV Japan Cup」を開催しました。これはマイクロドローンの完成品を提供している中国のメーカー「BetaFPV」が、初めて公式開催するレースということで、同社の幹部も来日しました。スポンサーの協力も得て、$3000の賞金も用意することができました。

5月26日、セガサミーホールディングスが運営するコワーキングスペース「TUNNEL TOKYO」で開催された「2019 BETAFPV Japan Cup」。施設の特徴的なレイアウトを活かしたユニークなコースで競われた

※2019 BETAFPV Japan Cupのコースのフライトをした映像はこちら

今回、ほとんど告知しなかったにもかかわらず、想定を大きく上回る200名の観戦応募がありました。これだけの観客を集めるレースは、国内では見たことがありません。場所が大崎というのもよかったと思います。5インチ機は残念ながら郊外でなければ開催できる場所がないのですが、マイクロドローンなら比較的場所を見つけやすいのです。これを機に都内各地で開催し、参加者が増える流れを作っていけたらと考えています。

レースは異例ともいえる200名もの観衆に見守られた

ただ、マイクロドローンは商品開発のサイクルが早くて、進化はうれしいのですが、レース主催者としては悩ましい問題になっています。レースでは全員が同じワンメイクのドローンを使うことにしているのですが、せっかく買ったのに次のレースで使えないような事態を防ぐようにしなければなりません。

私は「dknbFPV」というレース用ドローンのパーツや機体の販売、オーダーメイドのドローン製作を手がけるショップも運営しているのですが、こちらも数カ月で新製品が出るようなサイクルだと、心苦しいですよね。

競合も少なくチャンスは広いマイクロドローン空撮。機器価格が下がり始めやすく

――ジンバル付きのドローン空撮では、参入が相次いだ結果、極端に単価を下げる企業もでてきました。マイクロドローンを使った業界の状況はいかがですか

テレビ撮影では、テレビ制作のスタッフがDJIの機体を飛ばすようになっているそうですね。誰もが安定した映像を簡単に撮れるので、競合が多くなるのは仕方ないのかもしれません。

マイクロドローンに関しては、部品レベルの詳しい知識が求められ、最初は浮かせるのさえ、ひと苦労です。十分な練習が必要となり、参入障壁は高いといえます。

それに対して、仕事はたくさんあり、パイロットが足りていません。あくまで現在の感覚ですが、競合が増えるような感触もありません。ライバルが増えるというより、足りなければ紹介し合っているような状況です。そのため価格も自由に設定しやすく、チャンスは広がっていると思います。

私はレースで培ってきた技術をそのまま活かして、空撮の仕事につながっています。レースから入って腕を磨いて、空撮で活躍するというキャリアパスがありますよ。

――そう聞くと始めたくなってきたのですが、最初は1万円ぐらいのトイドローンから始めればいいでしょうか

あまりおすすめしません。どうしても性能が劣るので、操縦技能があっても思い通りに操縦できず、途中で興味を失ってしまうことになりかねません。楽しめないと、続きません。できれば、プロが使っているのと同じレベルのものを使ったほうがいいと思います。

――では、何から始めればいいのでしょうか

FPVではドローンのカメラをゴーグルに飛ばすので、日本の法律では、まず「4級アマチュア無線技士」の資格を取得して、無線局の開局申請が必要です。「第三級陸上特殊無線技士(三陸特)」もありますがいきなり業務用からスタートすると、機器代等のハードルが高いので、レースを目標にするのであれば、とりあえずはアマチュア無線からでいいと思います。

つぎにハードですが、機体、バッテリー、ゴーグル、プロポの4つがあれば始められます。でも、ショップを運営するなかで「何から買っていいかわからない」という声もよく聞きます。そこで、世界でもシェアの高い間違いない製品を組み合わせて「初心者セット」として販売を始めました。これなら5万円を切る価格帯で、本格的なマイクロドローンを手にできます。

後藤さんのショップ「dknbFPV」では、実際に使って勧められる機器を販売している

――そんなに手軽なんですね。でも気になるのは、上級者との違いです

レースはワンメイクで全員同じものを使いますので、日本のトップクラスの選手たちも、初心者セットと同等のドローンを使っています。BetaFPVの工場は中国の深圳にあって、私は工場見学もしたのですが、しっかりとした工程で、いい完成品を作っているという印象を受けました。

価格と性能で大きく違いが出てくるのは、プロポですね。高いものは10万円以上します。たしかに高価なものは操作性がいいのですが、ようやく最近になって2万円程度でも満足のいく操作性が得られるようになりました。環境が整ってきたおかげで、競技人口も増えてきているのです。

後藤純一さんのショップはこちら

インタビュー内にも出てくるBetaFPV製のマイクロドローンを初心者からスタートできるセットなどが購入できます。マイクロドローンでありながら、4K撮影が可能な機体も6月に発表され、非常に注文が入っています。

シミュレータも活用しながら毎日触れることが上達の王道

――ドローンレースや空撮の技術を身につけるには、どのような練習が効果的だと思いますか

とにかくプロポには、毎日触るようにすることですね。ですから、5インチ機を目指すにしても、まずはマイクロドローンから始めるのが近道ではないでしょうか。なにより室内でも練習できる手軽さがありますから。5インチは飛ばせる場所が少なく、飛ばせるようになるまでにはパーツも壊すので、お金もかかってしまいます。

私はいきなり5インチから入りましたが、もし当時マイクロドローンがあれば、5インチ機と並行してマイクロドローンでも練習していたと思います。

それから、シミュレータも重要ですね。バッテリーの充電が不要ですし、プロペラが壊れても交換不要。時間も手間もかからず、いつでも飛ばせますから。

シミュレータでもいいので毎日プロポに触ることが大切だという

――後藤さんはどんなシミュレータをつかっていますか

「Veloci Drone」というシミュレータを使っています。

ですが、シミュレータの世界では風の影響や空気抵抗、重力がないので、実際の環境とは感覚が異なります。高い精度が求められる場面で操作できるようになるには、やはり実機での練習は欠かせません。

――最後に、これから始めるみなさんにメッセージをお願いします

機器の価格も下がり、マイクロドローンは身近な存在になってきました。腕を磨けば賞金が得られるかもしれませんし、仕事につながるチャンスも待っています。私も参加しやすいドローンレースの開催を続けていきたいと思いますので、まずは見にきていただき、ぜひ挑戦してみてください。では、ドローンレースの会場でお会いしましょう!

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