撮影用ドローンレース機でエクストリーム映像の撮影にチャレンジ

この記事を書いた人 - 田川哲也

マルチコプター黎明期の頃から、空撮用ドローンを製作。現在も映像に拘りながら、市場にないパーツは自ら製作するその姿勢から、ドローン仲間からは「田川製作所」と称されている。本職はアイペックスのエンジニアとしてMHF I LKの開発に携わっていて、そのコネクタは世界最高峰のドローンレースに参戦するDMM RAIDEN RACINGの機体にも採用され、自身もRAIDEN RACINGのチームエンジニアとして参加している。


FPVレーシングドローンと同じくらいの軸間210㎜、5インチプロペラサイズにアクションカメラを搭載し、これまでの空撮用ドローンでは撮れなかった映像が注目されています。

この映像は、国内で初めて業務用ビデオトランスミッター(出力1W)を積んだ機体で 業務用空撮レース機として使われた一例です。

また以下の映像は満開の桜を撮影したものです。レース機だと、自分の思い通りに 木々の中を飛ばすことができ、空撮機とは違った映像が撮れます。

レース機で空撮映像がとれるようになった経緯

1、空撮機の歴史

レース機の空撮ができるようになった経緯を説明するには、空撮機の歴史、GoProに代表されるアクションカムの性能向上を説明する必要があると思います。

一部の限られた方はずいぶん前からラジコンヘリにカメラ積んで、撮影されていた方もいらっしゃるようですが、筆者含む、一般ユーザが空飛ぶカメラを手に入れることになったきっかけは2012年のPhantom 1とGoProの登場が大きいと思います。

Phantom 1のボディの下部にGoProをセットするだけという構成で、振動を取るアブソーバーや、ジンバルはなく残念ながらその映像はジェロ(※)だらけの酷い映像でした。

※ジェロとは:撮影した映像がゆらゆらと揺らいでいるような現象で、こんにゃく現象ともいいます。カメラのCMOSセンサーのローリングシャッタの歪なのですが、動きの速いものを撮影する、またはカメラ自体が揺れていると発生します。

2013年秋ごろにはアブソーバと2軸ジンバル搭載のPhantom 2がリリースされました。これにGoPro3を搭載することで、振動を感じない映像が取れるようになりました。

2014年夏には、Phantom 2 Vision+がリリースされて、アブソーバと3軸ジンバル搭載され、さらにカメラもDJI社が独自に開発したものを搭載した製品となりました。

ドローンにカメラを積んで綺麗な映像を撮るには?

①アブソーバが必要

機体のカメラジンバル部をつなぐゴムブッシュ部品。 モータやプロペラの振動を取る。

②カメラジンバルが必要

機体が傾いてもカメラは任意角度で固定できる。最近の主流はブラシレスモータで角度調整される。

その後、カメラの性能等上がっていますが、基本構成には大きな変更が加えられることなく現在に至っています。

2、レース機での空撮の歴史

GoProが登場した頃から、レース機で迫力ある映像が撮られるようになって行きました。1でご紹介した空撮機同様に、初めは機体にカメラを括り付けたような状態からスタートします。

しかしジェロにより満足な映像は取れないので、アブソーバーだけをつけた時代がありました。また、レース機は宙返り等をするので、ジンバルはその動きに追従できないので、基本的には搭載しません。

レース機のプロペラは空撮機に比べて小さく、モータが高回転で回るので、空撮機と比べるとジェロは少ないですが、この時代の映像はまだまだ趣味で楽しむレベルの映像しか撮れませんでした。

レース機の撮影は、ジェロ対策との戦い!

2016年秋に登場したキューブ型のGoPro 5 Sessionの性能が格段にあがり、機体に直付けしてもそれなりのクオリティの映像が撮れるようになりました。また、3Dプリンタの性能向上によりゴムのように柔らかな樹脂(TPU樹脂)でカメラマウントを作れるようになったことで、そのマウントがアブソーバの役目をして、直付けで撮れるようになったのです。

さらに2018年秋には、GoPro7が登場しました。HyperSmoothという手振れ補正(ソフトジンバル)機能が優秀で、直付けでもブレがなくとてもスムーズな映像が手軽に撮れるようになりました。

レース機と空撮用ドローンの違い

比較的容易に飛ばせるようになる市販の空撮機と比べて、レース機は飛ばせるようになるのに時間がかかります。まずは、簡単にレース機と空撮機の装備の違いを記述します。

装備の違い

センサーの違い

レース機は空撮機のように機体にGPSや気圧センサーを搭載していないので、上空で定位置にホバリングすることすらままならない機体です。その代わり、マニュアル操縦により自分の意図する自由な飛行が可能となるわけです。

空撮機は、目視で飛ばして、カメラ映像は構図の確認に使います。機体が傾いても、カメラはジンバルのおかけで水平のままです。しかしレーサ機はFPVで飛ばすのが基本ですので、ゴーグルに映し出される映像は操縦するためのものです。ジンバルがないので、機体の傾きがそのまま映像の傾きになります。なので、別の記録用カメラにどんな映像を残したいかを想像しながらフライトします。

FC(フライトコントローラー)の解説-レース機制御の特徴

FPVレース用ドローンのFCはどのようにして生まれてきたのか?のルーツをたどると、Multi Wiiという言葉に行き着きます。

Muliti Wiiは、マルチロータRCを制御するソフトウェアです。これはもともと任天堂Wiiのコントローラに内蔵されたジャイロセンサーと加速度センサーの動作を、Ardinoというマイコンにサポートするために開発されたソフトウェアです。Muliti Wiiは、身近にあるものでマルチコプター(今はドローンという)を作っちゃおうというプロジェクトでした。

つまり、FCはマイコンであることがわかりますが、そのMPU(メインプロセッサー)の性能と、IMU(6軸ジャイロセンサー)の性能アップにより進化しています。また、その性能を十分に引き出すために、日々ソフトウェアのバージョンアップもされています。

GPS、気圧センサー、超音波センサー等もつけることはできますが、市販品の空撮機のような安定した飛行は難しいので、あまり一般的ではありません。

プロセッサー一覧はこちらから(英語サイト)

KISS FCの解説 (特徴、映像比較)

レース機でKISSといえば、ESCの種類のフライトコントローラとなります。KISSというのはブランドネームで、開発はFlyduinoというドイツのメーカーが行っています。Flyduinoは2011年からドローン用電子部品を開発しているメーカーです。

一般ユーザ向けESCは2013年に発売されました。当時他のメーカのESCとは全く違うESCとして憧れの存在でした。今でこそ当たり前ですが、スロットル閉でブレーキが掛かるESCで、まさしくKISSに変えたら“ピュンピュン“飛ぶといわれていました。

フライトコントロール基板(FCと呼ぶ)に関しては、2016年初めにKISS FC V1がリリースされました。プロセッサーはF3で6軸ジャイロセンサーはMPU6050と、オーソドックスなFCでしたが、独自のファームウェアで独特の飛びを実現し、ドローンパイロット(特にフリースタイルの方)に支持されました。

2017年の終わりにKISS FC V2とESC 32Aがリリースされました。
FCに関しては、F7プロセッサー、6軸ジャイロセンサーはMPU6000 F7が搭載されたFCはKISS V2が初。ESCは6S対応、D-SHOT 2400対応と、時代の最先端をいきました。

レース活動に関しても2017年はDCLに参戦するなど、積極的な活動をしていました。 2018年に入ってからは、レーシングドローン用目新しい新規投入はなく、ESCの25A 4in1くらいです。現在は開発が落ち着いているようです。

現在、フライトコントロールのソフトウェアは、BetaFlight、ButterFlight、ReceFlighOne
KISSなどがあります。
一番メジャーなのはBetaFlight(ButterFlightはBetaFlighの派生)です。

KISSの特徴はプログラムまで独自開発で、KISSのプログラムはKISS FCにしか書き込みができません。KISS FCに、他のBetaFlightのプログラムは書き込めます。
パソコンでいうと、KISSはMac、BetaFlightはWindowsような感じです。
BetaFlightが上に記述したMultiWiiの血を受け継いでいます。

RaceFlightのソフトウェアもFCとセットで開発されているので、RaceFlightのソフトウェアを書き込めるFCは限られています。

BetaFlighは一番オープンで、多くのメーカのFCに対応し、頻繁にアップデートされ
進化のスピードが速いです。

以下、FC基板とソフトウェアの互換性です。

KISS機とBetaFlight機の特徴、映像比較

FCに用いられる、プロセッサ、6軸ジャイロセンサーの主要部品の性能はほぼ同じです。しかし、ソフトウェアが違うことで飛ばしたときの感覚が変わってきます。当然、この感覚はモータ、プロペラ、フレームのハードウェアによっても変わりますが、ハードウェアを全く同じにしたとしても、ソフトウェアの違いによる差は残ります。

筆者はKISS機の独特の飛行フィーリングが大好きで、その飛びが撮影機にマッチしているのでKISS機にこだわり、撮影用レース機はKISS機、FPVレース参戦機はBetaflight機という風に使い分けしています。

しかし、今回、Betaflight機でKISS機と同じ様な撮影機ができないものか?と挑戦してみました。

撮影機モデルの特徴

フレームは、ASTRO XのX5 JohnnyFPV J5を選定しました。これは、フリースタイルで有名なJohnnyさんが最近使っているモデル。フレームの剛性もしっかりあり、部品の配置もやりやすいです。

モータはXNOVAのFreeStyle 2207-2450KVです。これは新製品のモータでモータ自体が軽いためストレスなく回ります。

プロペラはHQの4.8×3.4×4(4枚ペラ)を選びました。普段は3枚ペラ使っていますが、巷で評判がいい、この4枚ペラをテストしました。コントロール性、静寂性 とてもいいペラと思います。

テスト用に製作したKISS機とBetaFligh機 構成部品比較

機体構成で、フレームはとても重要な要素です。今回用いたX5 J5は改良が重ねられたフレームで、フリースタイル用にいいフレームに仕上がっています。

モータのKV値ですが、レースではもっとKV値を上げますが、フリースタイルの
場合、2,400KVあたりがトルクがあっていいと思います。

カメラはMicro Sparrow 2 Proがお気に入りです。BF機にはFolkorを採用してみました。このカメラも大変見やすいです。

プロペラはレース機は3ペラ使っています。今回新しくHQから4ペラが出たので比較機に使ってみました。とても音が静かでコントロールしやすいため、レース機にも使えそうです。

以下 左がKISS機、右がBetaFlight機の写真です。

それぞれの長所

KISS機

  • 簡単な調整ですばらしい飛びが実現できる
  • ユーザインターフェースが分かりやすくセットアップが簡単
  • 配線が簡単

BetaFlight機

  • FCの種類が豊富で、安価なFCもある
  • オンボードOSDやGPS等拡張性が非常にいい
  • ユーザーが多いので、情報も豊富。ソフトウェアがどんどん更新される

それぞれの短所

KISS機

  • 価格が高い、BFの約2倍
  • OSDがオンボードでない
  • BlackBloxのためのフラッシュメモリー、SDカードスロットがない
  • GPSがつけられない

BetaFlight機

  • FCの種類が多い分、粗悪なFCも多数あり、値段だけで選ぶとうまく飛ばなかったりすぐ故障したりする(ビギナーの方は特に注意が必要)
  • 機能が多い分、ソフトウェアの設定項目も豊富。何の為の設定項目なのか理解するのが困難=設定するソフトウェアが複雑

以下、KISS機、Betaflight機ともに、フリースタイルで気持ちよく飛べるように設定した動画です。Betaflight機をKISS機のように飛べるように設定しました。撮影した動画では違いが判らないレベルです。

KISS機を飛ばすと“ヌルヌル飛ぶ”という感覚を受けます。これはデフォルトの設定がフリースタイル用に重きを置いているためと思います。

BetaFlightはデフォルトはレース向きです。フリースタイル用の設定にすると、設定を煮詰めれば、かなりKISSに近い飛びを実現できました。

このソフトウェアの違いの感覚の違いを車で例えると、ドイツ車と日本車、アメ車の操縦フィーリングの違いというような表現に似ているかもしれません。(国産でもトヨタ車と日産車が違うような)

なので、どれが正しいとかいうのはないような気がします。まずは自分のフィーリングとマッチする機体と出会うことが一番大事です。

KISS搭載機を多くの方に使ってもらいました。とても飛ばしやすいという、感想です。ACROモード(マニュアルモード)が簡単に飛ばせたという感想を頂きます。そういう意味で、ストライクゾーンが広い機体が出来ていると感じます。

※KISSの購入先

KISSはあまり日本では売っていないので、海外から取り寄せることになります。お勧めのサイトは、Flyduino(発売元)のWebショップかTBS(Team BlackSheep)です。適時、在庫が補充されています。

Flyduinoのサイトはこちら

Team BlackSheepのサイトはこちら

ソフトウェアもFlyduinoのHPからダウンロードできます。

ソフトウェアのDL

今回、私が製作した、機体の設定は以下の値です。似たような機体構成ですと、同じくらいの値で気持ちよくフライトできると思います。

GoPro7とOSMO ACTION どっちがレーサ機に向いているのか?

レース機で撮影するために、アクションカメラは必須アイテムです。今年DJIもOSMO ACTIONというアクションカメラをリリースしました。GoPro7のライバルとなるカメラです。Rocksteadyという手振れ補正機能も有します。Apple to Appleで評価するために、2台積んで飛ばしてみました。

映像を比較してみると、横が広く映るのはOSMO ACTIONです。しかし、縦はGoPro7のほうが広く映っています。カメラ角度は35度です。低空で飛ばすとき、地面が切れないほうがいいので、そこはGopro7の方がいいと思います。画像のブレはあまり変わりません。色見は違います。好みの問題ですし、編集でこの辺は変えられるのでどっちがいいとは言い難いでしょう。

左:OSMO ACTION 右:GoPro7

業務用空撮レース機の誕生

現在、日本でも多くの方がレース機でレースに参加したり、フリースタイルの映像を撮って楽しんでいます。しかし、FPVカメラ伝送の5.8GHzVTXはアマチュア無線運用なので、業務に使うことができません。業務で使うためには、ボータックからリリースされている5.7GHzの業務用VTXを使う必要があります。

業務用撮影で使えるレース機の開発依頼があり、屋外で使う5インチクラスのレース機に10mWのVTXでは電波の受信に不安があるので、1WのVTXを積むことにしました。

VTXの3D化

マウント設計

マウントの配置

まず、重たい1WのVTXをどこに設置するかを検討し、バッテリーを機体上面に積むことにして、VTXは機体の下に積むことにしました。また機体よりも高価なVTXが墜落しても破損しないように十分な強度を持つマウント設計をしました。FC、ESCはもちろんKISSです。

冒頭の動画は、こちらの期待を飛ばして撮影されました

テストを繰り返し、業務に耐えうる機体という判断の元、依頼されたパイロットにお渡しして、冒頭の撮影に挑んで頂きました。

最後に

市販の空撮用ドローン、産業用ドローンが進化し、自動航行できる時代に、このレース機は高い操縦スキルをパイロットに求めます。しかし、それだからこそレース機で撮影した映像は、空撮機と全くことなり、多くの人を魅了します。この撮影手法が市民権を得られるように、活動できればと思っています。


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